A:滅びの青羽 エヘヘトーワポ
エヘヘトーワポ……
シャトナ語で「滅ぼす」と「青羽」を組み合わせた語だ。奇妙な名前には、ちゃんと理由がある。こいつは度を越した偏食家で、ひとたび獲物の味を占めると、しばらくの間、執拗に同種の生物だけを狙いやがるのさ。それこそ、絶滅寸前に追い込む勢いでな。生態系を破壊するという意味でも大問題だが、もしも奴が人の味を覚えたら……想像したくないだろ?
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
一瞬周りが暗くなった。丁度晴れた日に表を歩いているときにイタヅラで布を被せられたような、何も見えない程真っ暗になったわけではなくて何かが覆いかぶさって影に入ってしまったような、そう言う感じだ。そして次の瞬間背中に背負っていた荷物を何かに引っ張られて体が宙に浮いた。
「何?何?」
あたしは手足をバタバタさせる。相方が慌てて名前を呼ぶ声が聞こえた。咄嗟に肩紐から腕を抜くと、あたしの体は重力に引っ張られて地面へと落ちた。幸いほんの少し浮いただけだったので落下の衝撃も大したことはなかったが尻もちを付いたお尻が痛い。
あたしは何があったのか確認しようと上を見上げると横幅が3mはあろうかというような黒い影があたし頭上を、あたしの荷物を掴んだままバサバサ通り過ぎるのが見えた。現地ガイドが叫ぶ声が聞こえる。
「エヘヘトーワポだ!」
「えへへって…あんたあたしを馬鹿にしてんの?」
あたしはすかさず噛み付いた。
「違う違う!名前だよ、名前、エヘヘトーワポだよ!」
ガイドは空を指さして弁解した。指さした方に視線を振るとあたしの荷物を鷲掴みにし大空を舞う巨大な翼竜の姿が見えた。
翼竜は所謂恐竜の一種だ。恐竜は太古の昔この星の陸地や海を席巻していた生物で、星の環境の変化で殆ど絶滅に近い程その数を減らしたものの、火山性の洞窟や水場の洞窟など特殊な環境に居たため運よく生き残った個体が現代まで細々と子孫を残し、種を繋いでいる。よく混同されるが恐竜は竜とはいってもドラゴン族とはそもそもルーツから違う。恐竜は蜥蜴などの爬虫類の始祖であり、ドラゴン族程の知性も知能もなく、当然理性もない。ドラヴァニアにも恐竜の流れを汲んだ種がドラゴンの眷属となり存在してはいたが、やはりドラゴン族とは根本的に異質な存在だった。そのほかにもラノシアやラケティカ大森林にもいた。当時はそれほど気にならなかったが、振り返ればやはりドラゴン族とは明らかに性質が異なっていたし、全然別の生き物のように無意識ながら認識していた。
「シャトナ族の言葉で『滅ぼす』と『青羽』という単語を組み合わせたのが奴の名前なんだよ!」
ガイドは物陰に走り込みながら言った。
「その名前のどの部分が『滅ぼす』で、どの部分が『青羽』なのよ?」
上空を小馬鹿にするように旋回するエヘヘオホホに杖を構え狙いを定めながら、あたしはガイドに向かって叫び返した。
「は?なんだって?」
どうでもいい事をいちいち聞き返してくる律儀なガイドにもう一度聞いた。
「エヘヘが『滅ぼす』?『青羽』?どっちがどっち?」
「知らねぇよ!」
単刀直入な返事は嫌いじゃない。あたしは早口に詠唱を唱えると恐竜目掛けて雷撃を放った。
「いっけ~!」
雷の球は独特の軌跡を描いてエヘヘオホホの足に着弾した。が、次の瞬間あたしの荷物まで粉々になるのが見えた。
「えええ…嘘ぉ…まだ一回も着てない服も入ってたのにっ…」
想定を超えた手痛い被害に思わず喘いだ声が漏れた。
「ねぇ、こないだ貸した服。まさか入ってないやんね?」
相方が聞いた事がないような地響きのような低い声で囁いた。
「くそぉ~~!エヘヘオホホめぇ!」
背筋に寒いものを感じたあたしは恐竜にブチ切れて誤魔化すことにした。
電撃でグラグラふらついていた奴は態勢を整えると大きな鳴き声を上げ猛烈な勢いで旋回すると急降下してきた。
「怒っとる」
相方がその挙動をみて呟いた。わかる。電撃のバチバチした痛みは何だか知らないがイラっと感情を逆撫でするものがある。
相方が抜身の剣を持って黙ってあたしの前に出た。
「さっさと終わらるよ。荷物チェックさせてもらうからね」
怒り狂って急降下で迫る恐竜より、恐竜のように怒り狂う相方の方に恐怖を感じて、あたしは震えた。